こんなものを貰った_01 : さくらんぼと夏野菜ー山形からの便り

彼女とはじめて出会ったのは、私がまだ会社にいた頃だったから、すでに10年以上の時が経ちます。手先が器用で頑張り屋。優しくて、料理はとびきり上手で、彼女がときどき催すお食事会はみんなが楽しみにしている素晴らしい会だったな。ひとつも気取りがなく、一口食べるごとに心があったかくなって、こどものようにはしゃいでしまう。本当に贅沢な会でした。

でも私にとって、彼女にまつわる何よりも深い思い出は、友人たちとはじめて彼女の実家に遊び行った時の経験です。

その頃の私は、いろいろなことに悩みはじめていた時期でした。会社に勤めて数年経てば、それなりの経験をつみ、仕事はどんどん充実していくものの、忙しさが加わって、心と体のバランスを崩しはじめる、そんなところに彼女が、他の友人とともに彼女の実家、山形での休日に誘ってくれたのでした。時期も確かちょうど今と同じ時期でした。

到着し、まずみんなが歓声をあげたのは、その木にびっしりと、たわわに実った真っ赤なさくらんぼでした。全員荷物をおいて飛び出し、教えてもらって、夢中でさくらんぼをつみます。
おやつにはお母さん手製のしそジュースと、次々とでてくる、さまざまなお漬けもの。どれもはじめて食べるとびきりの味でした。良く笑い、はしゃぎ、そしてひとしきり興奮したら、やわらかい風のはいる畳の部屋で、みんなごろんと寝てしまう。こんなに気持ちよくお昼寝したのは、一体何年ぶりだったでしょう?
その日の夜はバーベキューで、お父さんが庭からひっこぬいた長ネギを焼き始めました。よく焼けた頃、お父さんはネギの白い部分だけを食べて、緑の穂先の部分をぽーんと庭に捨ててしまいます。
「あれっ?お父さん、ネギ、まだたべるとこあるのに?」「白いところが一番美味しいところだ。青いところは放っておき」と言って、また別の白い部分を吸っているので、まねをしてみたら、納得でした。白い部分は、いままで経験したことのないほど甘く、口の中でとけていったのでした。
沢山笑って、沢山飲んで、沢山食べる。本当にお母さんがいうように、「肉以外の食べるものは、みんな畑でとれたものか、手作り」で、どれも私がこれまで味わったことのない、とても素直で、やさしい味でした。

このときの旅で、私はこれまで、あるひとつの物差しでしか、物事を見ていなかったことに、はじめて気付いたのでした。ただこの時点では、何が自分を悩ませ、不安な気持ちにさせていたのかを、心と体がなんとなく教えてくれただけで、頭で整理し、ことばにして理解できるようになるまでには、このあとまだまだ時間が必要だったのですが。

その後数年たって、私は会社を辞め、留学を決意しました。あ、この体験が直接の原因ではないことは断っておかなきゃね。これを読んだ私を知っている人に誤解されたくないですから。(笑)それにこう言っては何だけれども、今はその時よりももっといろいろな経験をつんだので、さらに柔軟な見方ができるようになっているのではないかと思っているし。(笑)

この時期、彼女からさくらんぼが送られてくると、私はいつもあの時の気持ちを懐かしく思い出します。
もやもやと、不安な気持ちを抱えていたあの時の私の心を、彼女は知って家によんでくれたのでしょうか。
とにかく、つやつやのさくらんぼからは彼女の「元気?」の声とともに、あの時の出来事がひとつ、ひとつ、みんなの笑顔とともによみがえってくるのです。

つやつやで甘酸っぱいさくらんぼ。この時期にしか食べられないからまたいい。

つやつやで甘酸っぱいさくらんぼ。この時期にしか食べられないからまたいい。